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仙台高等裁判所 昭和30年(ナ)2号 判決

原告 渡部文三郎 外一名

被告 室井源次

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「被告は昭和三十年四月三十日施行の福島県南会津郡田島町町長選挙における当選を失格したことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、「原告等はいずれも昭和三十年四月三十日施行された福島県南会津郡田島町における同町長選挙の選挙人であるが、被告は、同選挙に際し立候補し、その選挙開票の結果町長に当選したので、同町選挙管理委員会は、同日被告に対し当選の旨を告知してその旨告示し、被告は当選人となつた。しかしながら、被告は右田島町に対し請負をする会社の取締役である。すなわち被告は、同県南会津郡田島町大字田島字後町甲三九八四番地に本店を有する関根木材工業株式会社の取締役であるが、同会社は、田島町と昭和二十六年五月十四日以降昭和二十九年九月まで四回に亘り田島町中学校講堂外三箇所の建築工事請負契約を締結し右契約に基く工事は、同会社において目下進行中である。従つて被告は、所轄選挙管理委員会に対し、当選人決定の告知を受けた日から五日以内に右の関係を有しなくなつた旨の届出をしなければその当選を失うものである。しかるに被告は当選人決定の告知を受けた昭和三十年四月三十日から五日以内に田島町選挙管理委員会に対し右の届出をしなかつたので、右期間満了と同時にその当選の効力を失い、従つて田島町長の資格を失つたものである。しかるに田島町選挙管理委員会は、昭和三十年四月三十日被告に対し当選証書を附与し、かつ同日その旨、並びに当選人の住所氏名を告示した。そこで原告文三郎は、同年五月二十一日右委員会に対し右を理由に異議の申立をしたが、同委員会は、同月二十三日原告文三郎に対し何等の理由も付せず申立書を返戻したので、同原告は、同年六月二十三日再び同委員会に同一の理由で異議の申立をしたが、同委員会は異議の申立期間を経過したとの理由で右申立を却下した。これに対し同原告は同月二十四日福島県選挙管理委員会に対し訴願を提起したが、同委員会は翌二十五日同一の理由で訴願却下の裁決をし、同裁決書は同日同原告に送達された。よつて、原告等は被告の当選の効力を争うため、公職選挙法第二百七条第二項に基き本訴に及んだ次第であると述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として、原告等の本訴は、被告の当選の効力を争うものにほかならないから、原告等は公職選挙法第二百六条、第二百七条によりその所定期間内に田島町選挙管理委員会に異議の申立をなし、その決定を得て福島県選挙管理委員会に訴願し、その裁決を待つて同委員会を被告とし訴訟を提起すべきであるのに、適法に異議、訴願をなさず、かつ右委員会を被告とせずに当選者を被告としたものであるから本訴は不適法で却下さるべきものであると述べ、本案につき、「原告等の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告等の主張する事実中、関根木材工業株式会社が原告等の主張する田島町との間の建築工事請負契約に基き目下工事進行中であること及び被告が原告等の主張する期間内に、右会社の取締役を辞任した旨の届出をしなかつたことはこれを否認する。田島町選挙管理委員会が被告に対し当選証書を附与した旨並びに被告の住所氏名を告示した日時、原告文三郎がその主張する日に異議、訴願をし、その主張する日に異議却下、訴願却下の裁決があり、その裁決書が原告文三郎に送達されたことは、いずれも知らない。その他の事実は全部これを認める。関根木材工業株式会社は、土木建築業を営業目的とし、原告等主張の日に田島町と原告等の主張するような建築工事の請負契約を締結したけれども、これ等の建築工事はいずれも既に完成し、田島町における町長選挙が施行された昭和三十年四月三十日当時には、右会社と田島町との間の請負契約は終了していた。同会社は元より田島町の請負をすることを主たる業務としているものではないから、仮令被告が法定期間内に同会社の取締役を辞任し、田島町選挙管理委員会にその旨の届出をしなくとも、地方自治法第百四十二条、公職選挙法第百四条により当選を失うものではない。地方自治法の同条は、普通地方公共団体の長が現に当該公共団体の請負をなすこと、またはその請負をなすことを主たる業務とする株式会社の取締役の地位にあることを禁止する規定であり、公職選挙法の同条は、法定期間内にかゝる請負をやめ、または株式会社の取締役を辞任し、その旨を所轄選挙管理委員会に届出ない場合に当選を失わしめる規定であつて、過去において右のような関係にあつた者までを対照とする趣旨でないことは勿論である。なお、被告は疑義を避けるため、昭和三十年五月二日、すなわち田島町選挙管理委員会から当選人の告知を受けた翌々日関根木材工業株式会社に対し取締役辞任の申出をし、その翌三日右選挙管理委員会に対しその旨の届出をした。尤も右辞任の申出及び届出は口頭でしたものであるが、公職選挙法第百四条は口頭による届出を禁止していないから、被告は同条により当選を失う謂われはない。よつて原告等の本訴請求は理由がないものであると述べた。

理由

案ずるに、本訴は、昭和三十年四月三十日施行の福島県南会津郡田島町町長選挙において当選人となつた被告は右田島町に対し請負をする会社の取締役であるが、その当選の告知を受けた日から五日以内に同町選挙管理委員会に対し右の関係を有しなくなつた旨の届出をしなかつたからその当選を失つたものであるとし、その当選を失格したことの確認を求めるものであるが、右のような訴は結局地方公共団体の長の選挙におけるその当選の効力を争うものに帰するから、公職選挙法第二百七条所定のいわゆる当選の効力に関する訴訟に属するものと解するを相当とする。従つて本訴は、右法条に基き、先ず同法第二百六条による異議の申立及び訴願を経由することを要するのであつて、右異議の申立及び訴願はそれぞれ田島町選挙管理委員会及び福島県選挙管理委員会にすべきものであることが明かであると共に、同法第二百三条第二項により右訴願に対する裁決を受けた後において提起すべきものであり、又本訴は右訴願に対する裁決をした福島県選挙管理委員会を被告として提起すべきものであつて当選人は右訴について正当な被告となり得ないものといわなければならない。

そこで本件について先ず右の点を審査するに、本訴が右の異議の申立及び訴願を経由した後提起されたかどうかについては当事者間に争のあるところであるが、この点はしばらくおき、本訴は訴願に対する裁決庁である福島県選挙管理委員会を被告とせず当選人を被告として提起されたものであることは明かなところである。しからば本訴請求はこの点において被告の当事者たる適格を欠く不適法なものといわなければならない。なお行政事件訴訟特例法第七条の規定(被告を変更することができる規定)は公職選挙法第二百十九条の規定の趣旨に徴し本件の場合に適用されないものというべきであるから、本件において被告を変更することは許されないものであることはいうまでもない。

以上により原告等の本訴請求はこれを不適法として棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 畠沢喜一 杉本正雄)

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